
『護られなかった者たちへ』あらすじ
東日本大震災から9年後の宮城県内で、何者かに餓死させられた遺体が連続で発見される。
捜査線上には、過去に放火の罪で逮捕され現在は釈放されている利根という男が浮上。
【見どころ】震災がそれぞれ人生を一変させた
- 登場人物の多くが東日本大震災による心の傷を抱えている。
- 生活保護の実態が生々しく描かれる。
- 過去と現在のシーンが交差しながら物語が進む。
【主要登場人物 / キャスト】佐藤健(容疑者)を阿部寛(刑事)が追う!
感想(ネタバレ含む)一番悪いのは国の欠陥制度
この作品の注目点は、登場人物の多くが東日本大震災の被災者であるという事。
保健福祉事務所で働く面々も家族を失くしたりして心に傷を抱えている。
日本は表向きは豊かな国だけど確実に貧困層は存在し、国から生活保護という名の援助を受ける人と、苦しい思いをしてでも援助を受けずに自力で何とか頑張ろうとしている人がいる。
生活保護に頼らざるを得ない人を助るための制度なのに不正受給をしている者がいて、さらに不正受給者も事情を抱えて悩んでいる人と困っていないのにお金を受け取っている不届き者がいる。
福祉事務所の職員は「自分の仕事は人の役に立っているのか?」と葛藤を抱えている人が多く、公務員なので法律の規定に沿った事務的な事しかできずに、何が正解で何が間違いなのか分からなくなって思考停止になる人も多いそうな。
めちゃくちゃ重いテーマですよね。
お金がなければ生きられない、しかし本人が望まない限りは生活保護の申請は受け付けてもらえない。
制度を利用するかしないかは本人次第であり、職員に出来る事は相談に乗る事だけ。
作中でいくつか心に刺さる言葉が出てくる
「声を上げれば誰かが助けてくれる。」
そうなんですよ。
何も言わなければ困っていないと周囲は勘違いするし、本人に「助けて欲しい」という意思を示してもらわないと福祉事務所の人達は自分達から勝手に助ける事ができないというジレンマを抱えている。
取り返しがつかなくなる前に、苦しい時は「苦しい」と素直に意思表示をして欲しい。
とはいえ、自分が苦しんでいる事を身内に知られたくない人もいるんですよ。
生活保護制度は申請者の親族の方で援助ができないかという話が出てくるので、そこで躊躇する人がいるという事情がある。
「心配はされるものではなく、するものだ。」
そんな事を言っている場合じゃない位に追い詰められているのに、困窮の度合いが高い人ほど変なプライドを持っている。
限りある予算から援助金を交付するので行政機関は出来るだけ申請を受理したくない、現場の職員の本音は困っている人には一刻も早くお金を受け取って欲しい、申請者本人は様々な事情を抱えている。
本当に複雑で難しい話。
福祉事務所の職員は逆恨みの対象になりやすい
この作品では何者かの手による連続餓死事件が発生するのだけど、被害者は生活保護に携わっていた福祉行政の関係者。
彼らも葛藤を抱えながら仕事をしていて、困っている人全員を助ける事なんてできない。
助けを求める人は大勢いるけど、福祉事務所の職員の数は限られていて常にパンク状態。
そんな中で自分は見捨てられたと勘違いして職員を逆恨みする者が度々現れる。
犯人の動機も逆恨みによるものだけど、過激な行動に出るのはさすがにダメですよ。
悔しい気持ちがあっても、やはり人の命を奪うのは絶対にいけない。
犯人は被害者の事を「悪」とみなしてる訳ですが、そもそも誰が悪いという話ではなくて国の制度に欠陥があるのではないかという事。
千原せいじが演じたチンピラのような奴が保護金を不正受給できている時点で法律に欠陥があるのは明らかで、怒りの矛先は国に向けるべきもの。

それはそうと、千原せいじのチンピラ役は違和感がなくてハマり役だった。
いつもの関西弁ではなく標準語だったからこそ新鮮で良かった。
犯人がやった事は単なる「八つ当たり」でしかない。
原作では被害者にクズ要素があるのだけど、映画では単なる善人として描かれているので尚更そう思った。
『護られなかった者たちへ』は実話ではないけど、現実にあり得る話。
東日本大震災を題材にした実話に基づく映画としては『浅田家!』という作品があります。
関連記事 『浅田家!』あらすじ・感想
※二宮和也が実在の写真家・浅田政志氏を演じる。
『護られなかった者たちへ』を視聴できるサブスク
『護られなかった者たちへ』は生活保護の実態と殺人事件が絡み合う重いテーマの創作作品ですが、『浅田家』は東日本大震災を目の当たりにした地元出身の写真家を通じて未来に希望を見出す実話原作の作品。
個人的には『護られなかった者たちへ』を最初に観てから少し重くなった気持ちを『浅田家』を観て前向きにするという順番が良いかと思います。
『護られなかった者たちへ』の瀬々敬久監督の他の作品では『とんび』もオススメ。
関連記事 『とんび』あらすじ・感想
※舞台は昭和中期、妻を亡くした不器用な男が幼い息子を男手一つで育てる物語。